【庭記】足立美術館の庭園|「生きた絵画」の秘密と見どころ

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島根県安来市にある足立美術館。その名を一躍有名にしたのは、横山大観をはじめとする日本画コレクションだけでなく、敷地内に広がる壮麗な日本庭園です。

造園業の視点からその美しさを解説しつつ、楽しめる見どころをご紹介します。

足立美術館の庭園は「生きた絵画」

創設者・足立全康氏は「庭は一幅の絵画である」という信念のもと、庭づくりに情熱を注ぎました。その思想は、美術館の窓から庭を“額縁越し”に鑑賞する仕掛けにも表れています。

生の額絵

5つの庭園、それぞれの魅力

足立美術館には、趣の異なる5つの庭園があります。それぞれに凝縮された造園技術と美意識を、簡潔にご紹介します。

1. 枯山水庭

白砂と石組みだけで自然を表現した、静と動が同居する空間。石の配置や白砂の模様には、職人の高度な技術が込められています。

2. 白砂青松庭

白砂の海に松が浮かぶように配置されており、まるで横山大観の絵画の中にいるような感覚を味わえます。遠景の山々を巧みに借景に取り入れているのがポイント。

3. 苔庭

100種類以上の苔が織りなす、緑の絨毯のような庭。梅雨時のしっとりした風景が特におすすめです。

4. 池庭

水面に空や木々が映り込み、時間と共に表情を変える庭。鯉が泳ぐ姿と音のない静寂が心を整えてくれます。

5. 借景の妙

周囲の自然(特に山々)を、庭の一部のように見せる**「借景技法」**は必見。庭の境界を感じさせず、壮大な広がりを演出しています。


庭師の仕事とは「自然を読む」こと

足立美術館の庭園は、常に手が入り、日々「育てられている」庭です。

剪定や苔の管理、砂紋の描き直し、水の流れの調整など、庭師の仕事は自然と対話することに他なりません。

それは、絵画のようでありながら、常に生まれ変わる芸術作品。訪れるたびに違った表情を見せてくれます。


初めての人も楽しめる3つのポイント

1. 季節の移ろいに注目

春の桜と新緑、夏の濃い緑、秋の紅葉、冬の雪景色。年に何度訪れても違う美しさに出会えます。

2. 額縁に収まった「動かない絵」

館内の「額縁庭園」は、窓越しに絵画のように庭を眺める設計。じっと見ていると、風に揺れる木々や鯉の動きが静かな感動を生みます。

生の掛け軸

3. 静寂に身を委ねる

庭園内にはBGMや説明の音声はありません。聞こえるのは風、鳥、水の音。スマートフォンをしまって、「音のない時間」を楽しんでみてください。


終わりに|「庭は心を映す鏡」

足立美術館の庭園は、ただの風景ではありません。

自然と人の手が調和した、生きた芸術です。

それを育てる庭師たちは、自然を完全に制御するのではなく、自然を読み、共に生きることを選んでいます。

訪れるあなた自身の心の状態によって、見える景色もまた変わることでしょう。

ぜひ一度、心を静かにして、この「生きた絵画」を体験してみてください。

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